研究室紹介
原子衝突学会に関連する幅広い研究活動を知っていただくために、会員の皆様の研究室を紹介するページを設けました。
紹介記事は順次増やしていきます。
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最新の研究室紹介記事
低温表面での原子分子過程から紐解く宇宙における物質進化
北海道大学 低温科学研究所 宇宙物質科学・低温ナノ物質科学グループ
- 宇宙空間や地球・惑星大気で生じる原子・分子~ナノスケールの物理・化学現象の素過程を原子分子・表面科学的な実験手法を用いて研究しています.特に,宇宙空間の低温領域(~10K)に存在する,星間微粒子(表面がH2O氷やCO固体などで覆われた鉱物微粒子)に着目し,そこで起こる物理・化学プロセスを明らかにします.微粒子表面での化学物理過程は宇宙における物質進化の鍵を握っており,天体の化学的多様性の起源にもなっています。また,極低温の氷や分子固体表面では量子トンネル効果による拡散や反応,吸着分子の核スピン転換,反応で生じた余剰エネルギーの散逸機構など,気相では見られない多様な原子分子過程が未解明のまま残されています。当グループでは,異なる分野出身のスタッフが協力して,分野にとらわれない独創的な研究を行っています。その成果は物理・化学・天文学・地球惑星科学の学術雑誌・国際会議などで発表され,世界的に極めて高い評価を得ています。教育研究では物理,化学,地球惑星科学など広範な分野からの大学院生を受け入れています。
これまでの研究室紹介記事
MeVイオンと物質の衝突反応過程の解明
京都大学 大学院工学研究科 量子ビーム科学講座 加速器グループ
- 高エネルギーイオンと原子・分子の衝突およびそれに伴う反応過程は,放射性同位体や宇宙線など自然界の放射線が誘起する反応に加え,がん治療や物質改質など,量子ビーム技術の基礎として重要です.しかし,その反応は超高速かつナノレベルの局所領域で複雑に進行するため,素過程の多くは不明です.当グループでは,自前の3台のMeVイオン加速器を駆使して,主に物理的・物理化学的な観点から,独自の高度な測定技術に基づくユニークな研究を実施しています.例えば,高真空下に導入した液体分子線や微小液滴を用いた液体試料からの生成物分析や,生体分子を含む多原子分子の解離ダイナミクス,配向を特定したクラスタービームの衝突過程など,MeVイオン衝突反応の基礎研究を進めています.また最近では,イオン注入やイオンビーム分析などの応用研究や,静電型イオンビームトラップのような加速器以外の先端ビーム装置を用いた基礎研究なども広く展開しています.
イオン衝突と分光を主軸にした実験室宇宙物理学
東京都立大学 理学部 物理学科 原子物理実験研究室
- 1949年の都立大開学とともに化学物理研究室として質量分析の研究を開始しました。電子衝突による原子・分子の電離過程から、イオンビームを用いた実験へと移行し、現在では高電離イオンから負イオンまでを用い、衝突エネルギーsub-MeVからmeVまでの中性粒子標的との衝突過程を扱っています。多くの装置を開発してきましたが、古い物は淘汰され、今は電子サイクロトロン共鳴型イオン源と独立した4つの衝突装置からなる多価イオンビームライン、世界で3番目に開発された静電型イオン蓄積リング、および世界で唯一の液体ヘリウム冷却型イオン移動管装置が稼働しています。テーマも様々な変遷がありましたが、現在は期せずして実験室宇宙物理学と呼べるようなものに集約され、太陽風電荷交換反応によるX線放出、中性子星合体による重元素合成過程、原始惑星系形成領域におけるイオン分子反応、励起星間分子イオンの緩和過程を中心として、様々な宇宙物理分野の研究者との共同研究を推進しています。
量子ビームを用いた原子分子励起素過程の探索
上智大学 理工学部 物質生命理工学科 電子物性研究室
- 当研究室では「電子」を使った原子衝突物理の基礎研究を行なっています。特に、微視的世界を支配する量子力学の検証の場として、孤立した原子・分子の電子衝突や真空紫外線照射による励起素過程に着目し、励起断面積の定量測定から衝突ダイナミクスの包括的な理解を目指しています。例えば、電子と原子・分子との1回衝突による電離が引き金となり様々な衝突過程を経て、電離プラズマが形成されることから、その衝突断面積は半導体プロセスや核融合周辺におけるプラズマシミュレーションを左右する重要な基礎データとして改めて注目されています。そこで幅広いプラズマ温度に対応するエネルギー範囲、様々な衝突過程の系統的な衝突断面積データセットの構築も視野に入れ、電子エネルギー損失分光・光電子分光・質量分析など様々な観点から衝突実験に取り組んでいます。最近では加熱により振動励起した分子や難揮発性液体分子、固体表面へと標的を拡張した測定も始めています。
強レーザーパルスによる超高速ダイナミクスの可視化と制御
名古屋大学 大学院理学研究科 光物理化学研究室
- 高い時空間コヒーレンスをもつレーザーの誕生は、光の「強度」をパラメータとした新たな研究領域を生み出しました。原子分子内の電場と同等の強度をもつ強レーザー場における物質は「光の衣をまとった」状態の生成やアト (10-18) 秒領域の極めて短い光パルスの発生など、弱い光の場とは本質的に異なる応答を示すことがこれまでに明らかにされています。名古屋大学 光物理化学研究室ではコヒーレントな光のもつ性質を駆使し、先端的分光手法による孤立原子分子や固体における新奇現象の発見、化学反応過程の開拓と制御に向けた研究を行い、カガクの新たな展開を目指しています。特に (1) 数サイクル高強度レーザーパルスやレーザー高次高調波を用いたアト・フェムト秒領域の超高速分子ダイナミクスの可視化、(2) 波形制御した高強度レーザー場を反応場とした化学反応過程の開拓とそのコントロール、また (3) 極端紫外・軟X線レーザー場における非線形光学過程についての研究を進めています。
エキゾチック原子・分子から化学反応を見直す
東北大学 大学院理学研究科 化学専攻 放射化学研究室
- エキゾチック原子・分子では、通常の原子・分子にはない興味深い現象が数多くあります。これは原子・分子で有効な近似が使えないことを意味します。そこで、独自の手法を開発し、理論計算を行なっています。主な研究課題は、次の通りです。1) ミュオンがミュオン水素分子 dtµ をつくり、核融合反応を促進するミュオン触媒核融合 (µCF) の研究について、図のミュオン分子共鳴状態 dtµ* を含む新しい反応経路を提唱し、理論と実験によりこれを検証しています。また、エネルギー生産や中性子利用などに向け工学的見地も加味した µCF 炉も検討しています。2) 陽電子、反陽子、反水素などの反粒子と原子分子の反応の研究では、粒子と反粒子の対称性の検証実験のためだけでなく、新奇な原子衝突現象を見つけ、化学反応や化学構造の理解を深めることを目指しています。以上の他に、3) 福島第一原発事故による環境中の放射性物質の汚染とその影響調査にも取り組んでいます。
加速器を用いた原子分子衝突素過程の探求
奈良女子大学 理学部 放射線物理学研究室
- ベクレルとキュリー夫妻による放射能の発見から100年以上たった現代社会では、医療分野を代表として様々な分野で放射線が使われています。我々の研究室では、人工放射線である高速イオンビームを生成することができるターミナル電圧 1.7 MeV の加速器を用いた実験的研究を主に行っており、この装置から生成されるイオンビームを様々な標的に衝突させ、標的内原子との相互作用によっておこる諸現象や各現象間の相関を調べることを研究活動の中心としています。具体的には、イオンビームが標的薄膜を透過する際の入射粒子のエネルギー損失、荷電状態、出射角、固体標的からの二次電子放出、およびこれらの相関や、分子イオンビームを入射ビームとして入射分子イオンの解離と諸現象との相関等を調べています。また近年ではグラフェン等の新奇な物質を標的とした実験も始めています、このように当研究室では、応用にも役立つような素過程を探る放射線物理を目指して研究を行っています。
研究室ページへ http://www.nara-wu.ac.jp/phys/radiation/index-j.html
原子分子の多彩な振る舞い
理化学研究所 開拓研究本部 東原子分子物理研究室
- 当研究室では、GeV から meV までの広範なエネルギー領域と数時間からフェムト秒までの時間領域を網羅し、独自のアプローチと実験手法によって AMO (Atomic, Molecular and Optical) 物理の実験研究を展開しています。研究対象も多様性に富んでおり、1)0.4 K のヘリウム液滴中に内包された分子のレーザー分光、2)4 K 極低温静電型イオン蓄積リング (RICE) 中を数 keV で周回する分子イオンの時間依存振動回転レーザー分光、および遅い分子冷却過程の観測や中性原子との合流衝突反応測定への挑戦、3)電子ビームイオントラップ中の多価原子イオンのレーザー分光、4)薄膜単結晶を通過するUイオンをはじめとする数百 MeV/u の高エネルギー多価重原子イオンのX線領域の精密分光による基礎物理検証、さらには、5)超伝導X線検出器を駆使した、ミュオン原子のX線精密分光による基礎物理検証や生成ダイナミクス観測に及びます。またこの検出器による中性原子分子の質量分析にも挑戦しています。このように一見普通とは異なった、ときにはエキゾチックな系を対象としながら、そこに横たわる普遍的な基礎過程や相互作用を観測し、関連するダイナミクスを自由に操作することを目指しています。
研究室ページへ https://amo.riken.jp
陽電子を用いた原子物理、物性物理
東京理科大学 理学部第二部物理学科・大学院理学研究科 長嶋研究室
- 通常は存在しないエキゾチック粒子を物質に入射するとどのような現象が起こるかを調べることは、物理学の重要な研究テーマです。当研究室ではエキゾチック粒子の代表である陽電子を物質に入射することで、様々な基礎物理学の研究を展開しています。たとえば、陽電子1個と電子1個からなる水素原子様の束縛状態であるポジトロニウムや、陽電子1個と電子2個からなる3体の束縛状態(ポジトロニウム負イオン)、あるいは固体表面で陽電子が引き起こすイオン脱離の現象等についてです。これまでにポジトロニウム負イオンの高効率生成やポジトロニウム負イオンと光子の相互作用の研究、それを利用して生成したエネルギー可変ポジトロニウムビームを利用する研究、低速陽電子の入射に伴う TiO2や LiF 表面からの正イオン放出などの研究を行っています。また、得られる知見を陽電子以外の粒子にまで広げ、新たな物理現象を探索する研究にも取り組んでいます。