会長挨拶

会長に就任して


原子衝突学会会長
東俊行

40年におよぶ長い歴史と伝統をもつ本学会の名称は、atomicとcollisionという物騒なキーワードからなっています。世界中を見渡しても、この分野を対象とするこれほどの学術団体は少ないと思います。原子衝突という量子力学の散乱問題を取り扱う基礎分野と、出口として宇宙科学、放射線やプラズマ科学など極めて多様な関連分野を併せ持つことが特徴です。そして、他の学会組織を縦糸とするならば、分野横断的な横糸としてユニークな役割を担ってきました。

その昔、私は、原子力工学科の学生として放射線化学を学びました。分子に放射線が照射されると、超励起状態という星印が2個添えられた(M**)分子状態が生成され、これが物質の分解過程を理解する上で鍵であること、さらに、イオン種と中性種との間の反応は特殊であって、温度を下げるほうが進むことを学びました。どちらも初学者として不思議であると思った記憶があります。今、思い起こせば、これこそ本学会のテーマです。基礎的なことの重要性を学ぶにつれ、当時いかにこれらが専門の研究者にも注目されていたかを知り、強く興味を覚えるようになりました。つまり私は、関連分野から入ってきたタイプの人間です。あれから30有余年。実験研究者として実に様々な研究に携わるあいだに、多くの驚きと感動を経験し、私は物理屋でも化学屋でも技術屋でもない何でも屋、つまり「原子衝突実験屋」になりました。

その昔、衝突といえば、飛んでくる粒子と止まっている標的があるのが当然であったのでしょうが、今やこの範疇に当てはまらない例が多くなりました。分光あるいは断面積データをもとに量子力学の基礎を築くという立場の研究だけではなく、原子・イオンの内部・運動状態を自在に制御し、これによって興味ある状態を生成するということも盛んになってきました。我々が向き合っている科学は常に前進しています。

歴代会長や高橋前会長のもと、会員が切磋琢磨し、本学会の揺るぎない土壌が築かれました。財政的にも安定してきました。私に託された使命は、今まで積み上げられてきた伝統を守ることと同時に、前に向かって改革していくことです。具体的には、丁寧にやるべきことと、無駄を省いて簡素化することのメリハリをつけたいと思います。本学会の若手の研究者を尊重するという姿勢こそ、設立の時からのよい伝統であると思っております。形式的なことに囚われず、本学会に参加して誰もが熱い議論に加わることが最重要であると考えます。

更に国際化を促進したいと思います。本学会に所属する若手研究者の研究やネットワークのことを海外の研究者から尋ねられ、本学会の存在を紹介することが少なくありません。本学会が国の垣根を超えた組織に脱皮していく機が熟したと感じます。

私の抱くささやかな野望がどこまで実現できるかはわかりませんが、必ず意欲的な学会会員の皆様のご支援がいただけることと楽観的な気持ちでこの大役をお引き受けすることにいたしました。会員の皆様の叱咤激励こそが活力の源です。何卒宜しくご指導のほどお願い申し上げます。

2016年4月 東俊行


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